備忘録

科学技術論を専門とする大学教員・研究者である林真理の教育、研究、生活雑記。はてなダイアリーから移行してきました。

最後の授業(夜)

 既に募集停止しており、4年生(以上)しか在籍していない第2部の授業の試験監督をしながら、これがたぶん最後になるなと思いました。教室の外には新宿の明るい町並みと雑踏があります。それに対して、大学のビルの中には、昼間の学生も皆帰宅し、静かになったフロアで机に向かっている学生たちがいます。賑やかな新宿という世界の片隅で、小さな別の世界が広がります。
 教室に入りきれないほど学生があふれていた時代もあったのだという昔話を聞いたこともありますが、私が勤め始めてすぐに一部学科で定員割れが生じ、閉鎖までのカウントダウンも同時に始まりました。最後に答案を提出した学生の顔は忘れないでしょう。
 新宿で夜間開講しているということから、きわめて多様な学生が通う場であったことは、間違いありません。たとえば、私より年上で、高卒後に入社したメーカーに昼間は勤めながら通学している学生が何人もいました。かれらほど、すぐには役に立たないような知識の修得に熱心だった学生はいません。私はというと、高卒の対義語として用いられ、大学卒業を示す「学卒」という言葉を初めて知ったほどで、自分の無知なる領域に多々気づかされることがありました。
 大学という場は、学ぶ気持ち、成長する気持ちの人たちが集まり、いろいろなリソース(教員、施設、制度)がある中で、未知である新たなものの誕生を目指すところだと思います。決してインプットに対応したアウトプットが計画通りに出てくるような場所ではないし、そういうことがあるとしても、それだけが大事なことではないはずです。