備忘録

科学技術論を専門とする大学教員・研究者である林真理の教育、研究、生活雑記。はてなダイアリーから移行してきました。

『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎)の思い出

 もう20年近く前のことになるのですが、大学で倫理学の授業を初めて担当した頃、この本を参考文献の1つに挙げていました。大学に入ったばかりの学生たちにとって、社会的なるものについての関心を持つことが大事だと思ったからです。時代設定があまりにも古いことなどから、どれほどの効果があるのか疑問ではありましたが、自分自身にとって印象的であったものを学生に薦めてしまった若気の至りの推薦書です。
 当時ブックオフの100円コーナーでよく見かけ、ときどき「保護」していたため、手元に複数の文庫本がありました。そこで、希望者を募って教室でジャンケン大会(なぜか盛り上がった)をして学生にあげたのが、懐かしい思い出です。最近人気が出たということで、アマゾンの中古でもそれなりの値段がついていますが、数年後にはまた100円コーナーに登場することになり、もしかすると私のような大学教員が現れるかも知れません。勤務先では大学1年生の倫理学の授業はなくなったので、私が同じようなことをすることはもうないでしょう。倫理学のレポートには、大人になろうとする若者たちの苦悩に満ちあふれたものがあり、彼らが克服しなければならなかった多種多様な体験(家族問題、いじめ被害、不登校、いわゆる援助交際、風俗業勤務、人工妊娠中絶、スマートドラッグなど)の宝庫でした。そういうレポートを読むことも、もうありません。