備忘録

科学技術論を専門とする大学教員・研究者である林真理の教育、研究、生活雑記。はてなダイアリーから移行してきました。

授業準備不可能状態

 どこで読んだのかあるいは聞いたのか忘れたけれども、大教室で「講義ノート」を読み上げる教員の声が小さいので、聞き取ろうとする熱心な学生がスピーカーの下に集中して、さながら誘蛾灯に引き寄せられる虫のようであったという描写を記憶している。本当の話かどうかは別にして、どうしてそんなことが起こりうるのかというと、教員に権威があり、学生個人による保存・複写手段が未発達な環境においては、「講義ノート」を一字一句正確に書き取ることこそ、授業中の学生にとって重要な意味のある行動であったからだと推測できる。

 授業はこれまでも変わってきたし、これからも変わるだろう。大学のリソースの限界、著作権法第35条、学生のICT環境、教員へのインストラクション、考えると切り替えの大変さがよく分かる。通常以外にどんな授業が可能なのか、まだよくわからない。とりあえず個別の授業準備以外のことを考えるのが最良のオプションと思いつつも、授業をする人格が冬眠から覚めるかのように、体内時計が何かを記憶していることにも気づいている。