備忘録

科学技術論を専門とする大学教員・研究者である林真理の教育、研究、生活雑記。はてなダイアリーから移行してきました。

シンポジウム「放射線防護とは何か〜ICRP勧告の歴史と福島原発事故の教訓〜」(2020/09/13)メモ

「市民参加の3つの問題点」シンポジウムで学んだこと、重要だと思ったことを勝手にまとめてメモしました。
(1)ステークホルダー的世界観:市民を「巻き込む」ということが言われ、市民がステークホルダー=関与者としてアジェンダ作成に参加できるのは良いことだと言わることがあり、専門家だけでなく市民も声を挙げることが大切だと言われることもあって、同じテーブルについてフラットに議論することが良いことだとされることがある。しかし、そのときに、既に被害者である市民と、加害者である国や企業(この場合であれば東京電力)が、そもそも同じ立場でステークホルダーとしてフラットに話し合いができるとして良いものかどうか。加害者・被害者であるという履歴が忘れられてしまうことに繋がるのではないかという問題がある。もともとステークホルダーという言い方は、それぞれの立場性を持った上での関与者ということであるはずなのではないかと思うが、それが隠蔽されてはいけないということ。
(2)市民の連帯の様式:市民と言っても個人の集まりであること。市民が組織化されることによって力を持つことは、実際に何かを成し遂げるのには重要である。(この場合であればICRPに対して、大きな声としてその方針を左右すること。)他方でその一律性が、必ずしも一枚岩ではない市民の内部で強制性に転化する恐れがないとは言えないこと。あくまでも個人が重要であり、意図や目的を共有してたまたまゆるやかに集まった団体であるということを忘れない方が良いということ。
(3)批判的専門性:市民と言っても、非専門性を強調するだけではなく、専門家を巻き込んで組織化する必要があること。現在のままでは、推進派の科学者は軍隊で、反対派の科学者はゲリラなので勝ち目がないという表現があった。専門家はその領域を推進するがゆえに専門家になるということを考えると、そのとおり。批判的専門家はつねに少数派でしかありえない。専門性と非専門性の非対称だけではなく、専門の厚みにおける非対称性を区別して自覚する必要がある。その非対称性の克服には、被曝しない権利=避難の権利の強い正当性の主張と避難者に対する広範な社会的支持が必要になる。難しい。

www.shiminkagaku.org