備忘録

科学技術論を専門とする大学教員・研究者である林真理の教育、研究、生活雑記。はてなダイアリーから移行してきました。

ネット右翼は実在するか?

 「ネット右翼」のイメージを勝手に挙げてみる。漫画・アニメ・ネットに通じている若い男性で、嫌いな国は中国と韓国、尊敬する人は安部晋三、『嫌韓流』を保存用と読書用に2冊(場合によっては啓蒙用にさらに数冊)買うようなタイプ。そんなイメージが、何となく浮かんできてしまう。しかし、実際にそういう人物を(ネット上のブログ等では「見つかる」のだが)「オフ」で知っているわけではない。
 たしかに、2ちゃんねるでは韓国・中国に対する悪口が多数見られ、『嫌韓流』も実際に売れており、次期首相として安部晋三に期待する人が多いという調査結果もある。しかし、そういった個々の現象と、一群の傾向をもったある人々が存在するかどうかということは別ものだろう。それにもかかわらず、この言葉は一人歩きをしており、その種の人物が多数実在することを前提にしているかのような発言も見られる。少し用心深い人たちは、ネット右翼の実像について、若く見せているが実は年配者が多いのではないか、少数者による組織的な書き込みで多数いるように見せているのではないか等、いろいろな推測をしている。
 実際のところ、宿題レポートとか日常会話とか、いろいろな形で若年層の「思想傾向」に触れる機会が比較的多いと思われる私も、そんな大学生を発見できていない。しかし、私の知っている大学生の集団には偏りがあるだろうし、近くにいても私をあえて避けているかも知れない。某文科系大学に勤めるS氏は、実在を確認したと教えてくれたが、サンプル数が多いわけではない。まだまだ調査が必要だ。
 この問題の面白いところは、対象の実在性と呼称をめぐって論争がある点である。たとえば、ウィキペディアには「ネット右翼」という項目を立てるべきかどうかという議論が行われている。
Wikipediaの項目「ネット右翼」
 そもそも2ちゃんねる用語を辞書項目に入れるかどうかで議論はあるだろうが、問題はそれだけではなさそうだ。「ネット左翼」についても同様の論争はあるものの、あまり盛り上がっていない。
 あえてそういう命名をする方には、当然それなりのイデオロギー性が存在するだろう。だから、そんな言葉を使うなという人が出てくるのも自然な流れだ。しかし、使われない言葉は消えていく運命にあるから、それを待っていれば良いだけとも言える。呼称を認めず実在性を打ち消そうとする立場の人がいるということは、そういう呼び名が既に意味を持っているということになるのではないだろうか。
 ちなみにこの用語の使用頻度については、以下のようなデータがある。
 はてなダイアリー:グラフの左の方が欠けているのは、統計を取り始めたのが新しいからか?
http://d.hatena.ne.jp/keywordstats/%a5%cd%a5%c3%a5%c8%b1%a6%cd%e3?type=refcount&range=400