備忘録

科学技術論を専門とする大学教員・研究者である林真理の教育、研究、生活雑記。はてなダイアリーから移行してきました。

どこから「宇宙」なの?

 宇宙飛行士の野口さんがいる国際宇宙ステーションは「宇宙」と呼ばれていて、地上350kmくらいのところらしい。スペースシャトルが飛ぶのも、だいたい同じようなところだろう。地球の半径が6400kmくらいだから、それに対する割合は6%ほどになる。つまり地球を半径10cmの円にたとえると、円周のさらにまわりおおよそ6mmのところに宇宙ステーションがあることになる。あるいは、東京と大阪のあいだの直線距離よりも短いと言っても良いだろう。地球全体に比べてみたら、東京と大阪などすぐ近くだ。でも、ふつうにニュースを見て「宇宙」という言葉を聞くと、何だかもっと遠くにいるような気がしてしまうから不思議だ。地上から何千キロも離れているような誤解を与えないだろうかと心配になった。
 より良い表現はないかと調べてみたところ、地球物理学ではおおよそ地上800kmくらいまでを大気圏と呼んでいること、山崎さんや野口さんのいるあたりは「熱圏」と呼ばれていることがわかった。したがって、「大気圏ステーション」という言い方をここに提案したいと思う。ぜひ、「科学に対する一般市民の誤解をただす」活動や、「科学技術理解増進」活動に役立ててもらいたい。
 また、このような「誤解」には、「無重力」という言い方にも責任があるかも知れないと考えた。この言い方は、宇宙ステーションが、地球の重力圏を脱しているほど遠くにあるかのような印象を与えないだろうか。実際には、上記のように地上数百kmだとしたら、地上の9割くらいの大きさの重力は働いていることになる。その重力と遠心力がつりあって、打ち消されているだけで、重力そのものがないわけではないはずなのに。
 こう考えてみると、あの時代に飛んだ「アポロ」はすごかったんだね。