備忘録

科学技術論を専門とする大学教員・研究者である林真理の教育、研究、生活雑記。はてなダイアリーから移行してきました。

じゃんけんの難しさについて

 あらゆる遊びの基本要素とも言える「じゃんけん」が、やっと少しわかってきた4歳児。その様子を見ていて、じゃんけんというのはとても難しいものであることに気づいた。
 まず、グー、チョキ、パーという3種類の手の形を覚えなければならない。特に、チョキが難関だ。すべての指を伸ばすか曲げるかすればよいパーやグーと違って、それぞれの指ごとに、伸ばすまたは曲げるのどちらかの形で固定しなければならない。どの指を伸ばすのか、そしてどの指を曲げるのか、まず学習する必要がある。また、日常的な動作で使用する手の形ではないために、そのような形に指を固定することに慣れていないのもチョキが難しい原因だろう。なお、「グーチョキパーで なにつくろう」は幼児向けによく教えられる手遊びだが、これは明らかに将来じゃんけんを学習するための布石となっており、ここで手の形をだいたいマスターする。
 次に、一緒にかけごえを掛けながら、それに合わせて他の人と同時に出すという動作ができる必要がある。一緒にかけごえを出すというのは、呼びかけや合唱にも通じることであり、集団行動を覚えなければならなくなった幼児が学習して身に付けるものである。つまり、団体行動の基本を身に付けていなければならない。そして、そのかけ声に合わせて手を動かさなければならないが、かけ声に気を取られていると手を出すタイミングがずれてしまうのが問題だ。したがって、気を取られなくなる程度にかけ声に習熟する必要がある。さらに、手を出すタイミングというのは最高度の難易度であるかも知れない。何を出すか迷っていられるのがいつまでなのかということを理解しなければならないからだ。まだまだ4歳児には難しいようで、手を出してから指を動かしてしまうことがときどきある。なお、「最初はグー」というかけ声と動作は、素振りとしての効果があるので、じゃんけんの初心者にとっては大変助かるやり方である。
 さらに、順序関係のない強弱の組み合わせを覚える必要がある。これにはいくつもの基礎知識が必要だ。たとえば、「なぜチョキはパーに勝ってグーに負けるのか」を例にとって説明してみよう。
(1)「石」、「紙」、「ハサミ」という物とその名前を知っていること。
(2)それらを「グー」「パー」「チョキ」と関連づけて考えることができること。
(3)ハサミの機能が紙を切ることであることを理解していること。
(4)石は硬いのでハサミでは切れないということを想像できること。
以上のような知識が必要なのである。また、少し賢い子どもの場合には、もしかすると強弱というのは常に順序関係にあるものという誤解をする可能性もないではない。そうではなくて三つ巴の関係にあるのだということを理解するのは難しいことではないだろうか。
 最後に、そもそも「勝ち」「負け」とは何かという概念を理解しなければならない。負けて喜んでいるようでは、じゃんけんが理解できたとは言えないだろう。また、相手が喜んだり残念がったりするのを見て、じゃんけんに勝った(負けた)という感覚も沸いてくるに違いないので、そういった何らかの形で感情を表現することも大切になってくる。つまり、じゃんけんとは喜びや悲しみの感情を伴うコミュニケーションでもあるのだ。
 このように、非常に複雑で難解なゲームであるのがじゃんけんだ。これをいとも簡単に行うことができる人間というのはすばらしいと思う。逆に、じゃんけんのできるロボットをつくれたらそれはもう十分に人間と言って良いのではないかとも考えられないだろうか? (ただし、逆にじゃんけんができないからといって人間でないとは言えないことにも注意が必要だが。)