備忘録

科学技術論を専門とする大学教員・研究者である林真理の教育、研究、生活雑記。はてなダイアリーから移行してきました。

より安全なエネルギー源のための倫理委員会

 フクシマ事故を受けて招集されたドイツの委員会が12日にまとめた報告書案では、21年までにドイツ国内の原子力発電所はすべて閉鎖となる見込み。
 日本の新聞で見つけた報道は、とりあえず下記のみ。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2011051302000022.html
 以下のニューヨーク・タイムズ紙の記事によれば、メルケル首相は、原子力エネルギーをbridge technologyつまり「つなぎの技術」として位置づけ、残された問題はあとどのくらいのあいだ必要となるかだけであると考えている。経済問題については、省エネルギーと新エネルギー開発によって得られる利益の方が大きいと委員会が判断した。
http://www.nytimes.com/2011/05/12/business/energy-environment/12energy.html?_r=1&partner=rss&emc=rss
 ところで、まず「倫理委員会」と名付けられているところが驚きだ。経済や安全に先立つ問題があるという強い信念を感じる。あまり人ごとではないのだが、倫理学者は、原子力エネルギーへの依存がどうして、どのように悪(or善)なのか(地域格差、技術の巨大化、独占等)をしっかり論じた方が良いと思う。そういった基本的な問題が、(結論はどうなるにせよ)実利的な問題を考える前にあってしかるべきだ。
 また、もともと物理学者であり原発の使用延長を政策として掲げていたメルケル氏が、技術それ自体についての考え方を急に変えるとも思えない。世論の重さを考慮した政策判断に違いない。「コミュニケーション」すれば世論という制限条件の方が変わってくれると楽観的に信じている人とは大きな違いだ。
 委員の一人、ウルリヒ・ベックへのインタビューが下記に。
http://www.augsburger-allgemeine.de/politik/Katastrophe-von-Fukushima-Sind-die-Deutschen-hysterisch-id14744351.html(粥川さんのツイートで知ったサイト)