備忘録

科学技術論を専門とする大学教員・研究者である林真理の教育、研究、生活雑記。はてなダイアリーから移行してきました。

科学コミュニケーションは科学の壁を越えないのか?

 研究会の趣旨は、生命倫理の問題と言われるような問題について科学館が扱うことはできるのか、どのように扱えるのかというようなことだった。その場でいろいろな意見を聞いて、また終わった後で何人かの人と話して感じたことは、その扱いが非常に難しいということと、だからひょっとすると扱わない方が良いのかも知れないということだった。
 その理由は、そういう問題を深刻に捉えている人ほど、その人にとって必要な情報は決して「科学」に関する情報(と言われるもの)ではないということが多いのではないかと思うからだ。「科学コミュニケーション」というものが、その名のとおり「科学」にかかわる情報提供に限定されるとしたら、問題を深刻に考える人ほどその意味が小さくなるかも知れない。また、問題の科学的な側面のみが強調されて伝えられるとしたら、それは考え方の枠組みにあるバイアスをかけることになるだろう。もちろん様々な情報提供の回路が保証されている中で、科学的な情報を担当する役割の部署があるというだけのことなら、それはそれで構わないと思うのだが。