備忘録

科学技術論を専門とする大学教員・研究者である林真理の教育、研究、生活雑記。はてなダイアリーから移行してきました。

属人的技術

 某電力系会社の人や、某重電系企業を退職した元技術者の人や、現役の技術コンサルタントの人や、環境カウンセラーの人たちと話していたときのこと。たまたま翌日健康診断を受けるだった私が胃検診の話をすると、日本の胃カメラは○○社と××社がしのぎを削っているという話になった。私の自宅の最寄り駅を通る地下鉄の路線名を言うと、その地下鉄を作ったのは○○さんだ、という話になった。
 技術の外の世界を専門にしている私にとって、あまり固有性を帯びて見えないさまざまな「物」や「サービス」という技術上の成果が、かれらにとってはとても具体的なものとして見えており、どの会社の製品であるかとか、あるいはときには誰が主に関与して作り上げたものなのか、というようなことが問題になっているということに少しカルチャーショックを受けた。
 あって当然という「自然環境」の域にまで技術の成果が達していることを、改めて思い知らされた気分だ。この無自覚な状態を打破するためには、例えば鉄道だったら年に一回ストライキをするくらいのことをしなければならないのではなかろうか。完璧な技術提供をあえて避けて、まだ本当は余裕があるという程度で止めておく方が、安全性という意味でもそうなのかも知れないが、今の生活にとって不可欠な技術的成果がそこにあることを感じることができるという点で重要なのではないかと思う。