備忘録

科学技術論を専門とする大学教員・研究者である林真理の教育、研究、生活雑記。はてなダイアリーから移行してきました。

スイートプリキュア すばらしきジェンダーフリーの世界

 シリーズとしては既に8年も続いているが、初めてまじめに見ているアニメ「スイートプリキュア♪」(最後の文字は八分音符)。妖精の国メイジャーランドに「幸福のメロディー」を取り戻すため、「プリキュア」(その定義は謎)に変身して、マイナーランド=敵と戦うことになる4名の人間女子のお話。全編を通じて、音楽がモチーフになっている一貫した設定。題名の「スイート」も、sweetではなくsuite(組曲)。
 何年も子ども向け新作アニメなど見ていなかった私が驚いたのは、その戦い方だ。パンチ、キック、そして体当たりと、素手で格闘を繰り広げる。時には、傷つき、倒れることもある。そのすさまじさは、男子向けの戦闘ものと遜色ない。ピンチになると技の名前を高らかにさけびながら必殺技を繰り出すが、これも「ライダーキック」など見覚えがある。
 戦闘系特撮・アニメにおける女子の存在は、かつて齋藤美奈子『紅一点論』が見抜いたとおり、「職場の花/セクハラ対象の補助員」であった歴史をもつ。男目線で作られ、見られた作品がそのように描いてきた理由はよく理解できる。他方、アニメの「美少女戦士セーラームーン」(1992-7)は、女子向きに作られた「戦闘」もので、月野うさぎという女主人公を置くことで一線を画した。その意味で当時は新鮮であったに違いない。しかし、うさぎのそばには、さりげなく手助けをするタキシード仮面がいた。この仮面の男性は後のうさぎのパートナーすなわち「王子様」である。「王子様」が存在しているのが、少女向けの物語の常道だ。したがって、女子向け物語としては伝統に背いていない。
 ところが、さらに「王子様」の存在を拒否するのがプリキュアの世界だ。戦闘もの主人公をそのまま男子から女子に入れ替えて移植したに等しい。何しろ女子だけで戦い、しかもその戦い方は、まさかの肉弾戦なのだ。女が力技を使えるなら、もう男は必要ない。(男という存在は単なる飛び道具であったことが露呈されていると言えよう。)一応「王子先輩」というベタな名前の人物が登場し、北条響(変身後=キュアメロディ)のあこがれの人という設定になっているのだが、戦闘では何の役にも立たないし、「ここで決めなきゃ女がすたる!」(明らかにジェンダーの転倒を意識した台詞)の響の前では影が薄く、「王子様」不必要をいっそう際立たせる結果になっている。(ちなみに、前々々作「Yes!プリキュア5」にはイケメン男子が2名出てくるが、プリキュアたちに協力する際の姿は小型犬とリスであり、「王子様」というよりペットに近い。)
 北条響南野奏(変身後=キュアリズム)が、プリキュアというチームプレイを通じて本当の友達であることを確認していく過程はまさに「友情」の物語。かつて少年ジャンプが男子向けに描いてきた「友情」「努力」「勝利」の世界は、実は女子だけでも成立する。それを教えてくれるのが「スイートプリキュア♪」だ。