備忘録

科学技術論を専門とする大学教員・研究者である林真理の教育、研究、生活雑記。はてなダイアリーから移行してきました。

田中三彦講演メモ(学術会議・科学史学会シンポ2013年5月26日)

(面白かったので勝手にメモ。)

演題:日本に導入された原子力発電システムの技術的レベルでの考察

肩書き:元原子炉圧力容器設計技師 サイエンスライター

福島第一原発について)1号機は地震でやられているという確信を強く持っている。国会事故調は推論は書いてはいけない、ファクトだけ書けと厳しく言われた。その後、外に出せないデータも含めて分析を進めることができた。水素爆発は5階で起こっていると思われているが、実際は4階で起こった。大物搬入口は4階と5階のあいだにある。地震発生時は閉まっていた。それが、吹き上げられたと考えられる。5階の梁には損傷がない。4階で爆発したとしたら、非常用復水器 (IC: Reactor Core Isolation Cooling Condenser) が[地震で]壊れていたということ。

原子力草創期の見方)原発はローテク。その後の、シミュレーション重視の考え方、壊れない設計が可能という感覚には、ジェネレーションギャップを感じる。

(設計技師としての自分)原発の設計はとても面白かった。そして「会社人間」だった(つまり「社会」を知らなかった)。工場の内側にある倫理観つまり会社の倫理しか考えていなかった。原発の反対論の存在も知らなかったし、地域社会の問題があることも知らなかった。

岩波新書)『原発はなぜ危険か』を1988年に書いた[1990年出版]。非法規的な方法で、圧力容器のゆがみを修正したことを述べた。それによって脅しも受けた。

(設計基準)「ASME [BPVC] SectionIII」という規格。ASME(アメリカ機械学会)による[圧力容器等の]基準。設計者の「聖書」。1963年版が最初。1965年からは3年おきに改定。またその間、複数回でAdenda(補遺)。1971年に劇的改定。「nuclear pressure vessels」から「nuclear power plant components」へと対象が拡大した。

(DBAの考え方)安全率が高いのは、応力解析ができないということ。不確かさの程度が高い。その安全率を4から3に下げることになった。これはDBA(design by analysis)の導入によってなされた。そこでは、できるだけ詳細な応力の分析が問われる。コンピュータの登場とも関係。一部はコンピュータも使用したが、その他はタイガーの手回し計算機か計算尺。DBAでないのはDBF。これは、決まった式に入れて計算する方法で、中学生でもできる。 DBAは高度で、設計者のセンス、経験が問われる。だから面白い。

(DBAの魅力)DBAは理論的であるがゆえに、原発メーカーに熾烈な構造解析プログラム開発競争をもたらした。また明らかにそれが、若い原発設計技術者の生き甲斐にもなっていた。今日の原発技術は標準化が進み、ある意味でDBF的であり、原発の設計技術に魅力がなくなりつつあるように思える。大変面白くて、設計しているとき、それが原発であるということは、ほとんど忘れているほど。

(日本の規格)アメリカのASMEIIIは早くも1970年に維持基準に至る。それに対して、日本では1965年に初めて「通産省令第62号」制定(抽象的なもの)。1967年にアメリカに調査団を派遣。ようやく1970年に「1963年 ASMEIII」を翻訳して、告示501とする。1974年に告示501の改定に着手して、1980年にできあがるが、これは1970/74のASMEIIIを参考にしたもので、そのときアメリカはスリーマイルの事故を体験しており、既に時代遅れとなっていた。しかし、TMI事故によってアメリカの原発技術が信頼を失ったため、逆に日本が原発の技術大国だと信じる技術者が生まれた。

(ベント装置)そのため、日本のベント設備は1992年から。不要と思われていた。アメリカはTMI事故によって考えを変えたが、日本では原子力安全委員会が指針を出してようやく重い腰を上げた。

(耐震設計指針)原子力委員会が1978年に策定。それ以前に16機できている。1979年以前に運転開始した原発のバックフィットはどうするのか。それを第三者チェックで行う必要がある。しかし、ベント設備の図面がなくて東電があたふたしたように、重要文書の保存義務がまったく果たされていない。それは、安全性が保証できないということ。したがって、1980年以前の原発は使えないのではないか。

(思い出)製品は船で工場から出て行く。そのときは寂しい。万歳をして見送る。

(再稼動)古い原発の怖さがわかっていない。

(最後に)自分より優秀な設計者がいた。彼らは今何をしているのだろう。厚生年金をもらい盆栽をやっているのかも知れない。声をあげて欲しいと思う。

([]は私が書き加えたものです。それ以外は、田中氏のスライドまたは講演から起こしていますが、完全ではありません。誤解や間違いもあると思いますが。ご指摘下さい。)