備忘録

科学技術論を専門とする大学教員・研究者である林真理の教育、研究、生活雑記。はてなダイアリーから移行してきました。

さようなら「こどもの城」

 今年度で閉館なので「さようなら」と書きましたが、実は初めて行ってきたところです。子育てをしていなければ私も知る機会はなかったと思いますが、東京の人なら、青山学院の向かいで、ウィメンズプラザや国連大学と同じブロックで、青山円形劇場と同じ建物であると言えば思い当たる人も多い場所でしょう。その「こどもの城」は、簡単に言うと「大きな児童館」です。児童館は、23区内ならたいてい家の近くに区立のものがあって、指導員がいて、図書や簡単な遊び道具が置いてあって、時には子ども向けの季節行事イベントが行われたりするところですが、法律的には児童厚生施設という位置づけです。
 その厚生施設の中でも、「こどもの城」は厚生省(当時)が率先して1985年に開設した、特別な位置にある存在のようです。簡単なレターを発行したり、指導員の研修を引き受けるなどしてきたところを見ると、「児童館文化の発信地」として機能してきたものと想像できます。高くはないですが入館料が必要なため、近所の子どもたちばかりでなく、少し遠くから、イベント的に遠征してくる親子連れも多いのではないかと思います。(うちもそうでした。)
 8歳児は、最初指導員のいる部屋で、紙切れを使った工作をしていましたが、その後アスレチックフィールド、おもちゃのキッチン、デュプロブロックで遊ぶようになりました。それでやっと気づいたのが、以前に行った「アソボーノ」(リンクはこちら)と同じようなものでもあるということでした。なるほど、東京ドームシティのアソボーノは、児童館を現代風にして、民営化したものだったという重要な発見?をしました。
 ところが、こどもの城では、閉館の時間が近づくと親子が遊具の片付けに入りました。これは時間制で入場料をとるアソボーノでは想像しにくい光景だと思いました。こどもの城では、指導員が、順番を守るように子どもに注意をしており、教育的機能が生きているように思いましたが、アソボーノでは利用者にあまり干渉せず、親の責任ということになっているように見えます。こどもの城の玩具は使い込んだものがたくさんありましたが、アソボーノは提携玩具メーカーから提供された最新の品物が入荷されていると見ました。そのように比較してみると、子どもたちにとっては同じような「大きな遊び場」なのかも知れませんが、社会的な機能は異なっていることになります。
 「民間にできるものは民間で」となると、地元に密着した児童館はもしかすると廃れていく運命にあるのでしょうか。遊びとしつけのための地域的インフラが失われて、代わりに出てくるものが親の資金力によっては行けない民間の施設ということになれば、教育格差はますます広がります。そんなことにならないように、こどもの城は消えても、児童館はまだまだ残っていくのではないでしょうか。余裕のある層に新しい魅力的な選択肢を提供するのが、民間の教育産業としては今後の生き残りの道なのでしょうが、そういった営業が安心してできるのも、他方に教育の機会均等の政策的下支えがあればこそだと思います。