二部の授業終了時、明らかに教室で最年長(もちろん私を含めても)と思われる方から言われた一言。
「先生の授業は、(一呼吸置いて)おもしろいですねー・・・役に立つかどうかは、わかりませんが(微笑)」
とても熱心に受講している方で、私の意図がよくわかってくれている、と感じた。
山口裕之さんが『人間科学の哲学』(勁草書房)の後書きの中で、「哲学は役に立たない」という物言いがあまりにもストレートに受け取られるようになってしまったので、「哲学は馬鹿の役には立たない」と言い換えることにした、ということを述べている。「役に立たないこと」の美学、あるいは知識には狭い意味での有益性や有用性以外の意義もあること、が忘れ去られていくことには私も抵抗したいと思う。
逆に、知識が役に立つと思われそうになったときこそ、ちょっと立ち止まって気をつけなければならないのではないかと思う。このことは、基礎科学をやっている人なら、よくわかっていることだと思う。倫理学や科学史が役に立つと思われてしまうような状況なんて、警戒してもしすぎることはないくらいだ。