備忘録

科学技術論を専門とする大学教員・研究者である林真理の教育、研究、生活雑記。はてなダイアリーから移行してきました。

Rosa Navarroのケース

 日本語記事はとても短いので全文引用。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070731-00000109-jij-int

薬物で患者死亡早める=臓器移植担当医を訴追−米検察7月31日17時1分配信 時事通信
 【シリコンバレー30日時事】米カリフォルニア州サンルイスオビスポ郡地検は30日、臓器移植に使う臓器摘出を急ぐため、昏睡(こんすい)状態の25歳の男性患者に薬物を過剰投与して死亡を早めた罪で、外科医フータン・ローズロク容疑者(33)を訴追した。地元紙によると、臓器移植担当医の摘発は全米で初めて。

 患者の担当医ではなく、「臓器移植担当医」が死亡前にドナーになりそうな患者に関与すること自体が大問題なので、議論の余地なし。
 ロサンゼルスタイムズ
http://www.latimes.com/news/local/la-me-transplant31jul31,0,7257401.story?coll=la-home-center
によれば、司法当局はこの問題を、患者の意思が確認できない成人重度知的障害者への対応の問題として捉えようとしているようだが、上に書いたように臓器提供システムの規則破りであることは疑いない。
 また、一般的に脳死移植において、脳死判定前から、死を早める可能性のある行為(あるいは控えめに言って患者本人には何の利益もない臓器提供のための準備行為)は実際に行われているわけだが、そういった行為がどこまで許されるのかという微妙な問題には触れられていない。
 イギリスのタイムズオンライン
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/world/us_and_americas/article2176298.ece
では、こんな事件が起こったら臓器提供を躊躇う人が出てきて、せっかくオプトアウト方式(意思表示のない場合は臓器提供「可」と見なす意思表示方式)の議論を進めているのに邪魔になる、といった生命倫理学者の感想を紹介している。これもまた事件を特殊な事例と捉えて、臓器移植そのものにかかわる一般的な問題とは捉えない見方だ。
 ちなみに、大量のモルヒネ投与にもかかわらず患者はさらに数時間生存したために、臓器は提供不可能だった。また、臓器移植医の弁護人は、(結果的にすぐ死ななかったということは)被告の行為が直接死につながったわけではないので無罪だと主張している。
 生と死をもてあそばれた犠牲者に黙祷。