備忘録

科学技術論を専門とする大学教員・研究者である林真理の教育、研究、生活雑記。はてなダイアリーから移行してきました。

運転経歴証明書(普通免許の返納)

 誕生日を機に、普通免許を「返納」することにした。もちろん更新しないでそのままにしていれば免許は勝手に失効するので、単に車の運転を諦めるだけならそれでも良いのだが、下記サイトに出ている「運転経歴証明書」というものをゲットしてみたくなったので、きちんと手続きをとることにした。
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/kotu/hennou/hennou.htm
 この手続きのために、まず様子見に都庁内の運転免許センター、その後地元のN警察署に足を運んでみたので、わかったことと考えたことをメモしておく。
(1)理由を聞かれる
 基本的に「高齢者向け」ということなので、そう見えない人が行くと怪しまれる。特に都庁内の運転免許センターでは、複数のおじさんにとりかこまれて、理由を問いただされた。「まだ、若いのに」などとも言われた。あまりに聞きたがるので「申請書に理由を書いたりするんでしょうか」と逆に聞き返すと、そういうわけではないけどということだった。それに対して同じようなことをN警察署の人に聞いたところ、上の人に理由を伝えて許可を得なければならないのだと教えてくれた。「乗らないから」という理由でお願いしますというと、不安げに窓口から奥に戻っていったが、大丈夫だったとのこと。そりゃそうだ。返納させないと言われたら、驚くぞ。
(2)警察署の中でも多数がこの制度を知らない
 まず更新センターでは、受付の人に別の書類を渡された。どうも違うと思って、こちらから少し説明すると、別の人が出てきてやっと理解してくれた。地元の警察署でも、窓口の人は知らなくて、おそらく交通関係と思われる担当者に回されて、それでわかった。その人はとてもよくわかっていて、親切に手続きを指示してくれた。
(3)特典の条件が不明確
 この証明書を持っていれば特典の受けられるサービスというものがある。「高齢者運転免許自主返納サポート協議会」に参加している企業のサービスだ。「自主」というのだから、補助金などが出ているわけではなさそうだし、どうやって協賛企業が集まったのか不思議である。
 ところで、それらの企業の中にはサービス利用の条件としてこの証明書の提示以外に高齢者限定をうたっているものもあるが、特別に年齢制限があると書いていないところもある。たとえば、巣鴨信用金庫のウェブページによると、定期預金金利を優遇サービスの条件は「運転経歴証明書を所有する個人のお客様」とあるだけだ。他方で、某宅配ピザ屋さんは年齢制限を設けている。年齢制限を明らかにしていないところが実際はどうなのかは、いくつか実際にチャレンジしてこれから確かめてみたい。
(4)免許があって当たり前という意識は根強い。
 警察署でも驚かれたし、その後この証明書を入手して人に見せるたびに驚かれている。中には、私が免許を持っていたことに驚く人もいるが、どちらかというと免許を返納したことに驚かれる。どうしてなのだろうか?
 不況になって、国内でも自動車が売れなくなったと聞く。これを聞いて感じたのは、自動車産業は実は「虚業」なのではないかということだ。自動車産業は、典型的な「ものづくり」産業だが、しかし「ものづくり」をしているからといって「実業」であるとは限らないのだと思う。
 不況になって個人が消費支出をカットしようとするときでも、絶対必要なものは最後まで残るだろう。まず削られるのは、あってもなくても良いもの、本当ならなくても良かったものだ。もちろん、業務用を含め、また個人でも事情によって、自動車が絶対必要な場合が多々あることは確かだ。しかし、そういった絶対必要な自動車以外の自動車消費というのが、これまで多すぎたということなのではないか。それが減っているというのは、むしろ自動車産業が適正規模に向かっているということではないのだろうか。休日の高速道路料金値下げや、自家用車買い換えに対する補助金支出というのは、そういう「虚業」の延命に過ぎないと言える。
 高齢社会における交通事故対策として、免許返納制度はこれからも続いていくだろう。しかし、認知度は必ずしも高くないし、運転人口を減らしたくないという逆方向の圧力もどこかで働いているように感じられた。高齢者に限らずもっと広まって欲しい制度なので、ぜひ宣伝したい。
<参考文献>
杉田聡『クルマを捨てて歩く!』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/406272085X/
なお、自動車販売台数に関しては自販連のページを参照。
http://www.jada.or.jp/contents/data/type/index01.php