備忘録

科学技術論を専門とする大学教員・研究者である林真理の教育、研究、生活雑記。はてなダイアリーから移行してきました。

臓器移植法その後

 読売新聞(だけかも?)が伝えているニュース。

 15歳未満の脳死臓器提供を認める改正臓器移植法が7月に施行されるのを受け、厚生労働省研究班(班長貫井英明・元山梨大学長)は、虐待を受けて脳死になった子どもからの臓器提供を防ぐ診断マニュアルの素案をまとめた。厚労省は研究班の報告をもとに診断マニュアルを作成する。 
 素案では、提供できるケースを〈1〉病気で入院中に脳死になるなど、病気との因果関係が明確〈2〉事故で第三者の目撃証言があり、外傷と証言に食い違いがない――に限定。自宅での病気療養中や、家族の目撃しかない事故で脳死になった場合は虐待の有無に関係なく除外される。臓器提供施設に「子どもの外傷と親の説明が食い違う」など、虐待のチェックリストも配布する。

http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20100207-OYT1T00101.htm
 移植を急ぐあまり児童虐待が見逃される恐れがあるというのは、ずっと懸念されてきた。その懸念をとりあえず払拭しようという慎重な基準だとは思う。
 ところで、改正臓器移植法は基本的には7月改正だが、親族への優先提供に関してはこの1月、既に先行実施となっている。家族間の臓器提供の問題は外に出て来にくい(ということが生体移植の研究から明らかになっている)という問題がある中、こちらでもいくつかの条件が設けられている。特定の個人を指定する親族提供はできないこと、自殺者からの提供は避けるなどが、その条件だ(下記参照)。
日本臓器移植ネットワーク「親族優先提供に関する重要なお知らせ」(PDF)
 しかし、これで十分なのかという声も存在する。たとえば、日本循環器学会心臓移植委員会は、すべての心臓移植を親族優先の例外とするよう要望している。これは、自殺以外にも様々な問題が起こりうることを懸念してのことだろう。たとえば、親族の定義には、夫婦や特別養子縁組の親子が含まれることになっているが、制度を悪用するケースもないとは言えない。実際に生体腎臓移植では親族を装って臓器売買が行われた。
心臓移植における親族への優先提供に関する要望書(PDF)
 こういった改正臓器移植法に関連する制度問題などを話し合っているのは、下記の委員会だ。親族優先提供については、循環器学会の指摘をあまり深刻に受け止めていないように見える。新聞記事にある研究班の班長もこの委員会の委員なので、基本的にはこの研究班の決定がそのまま受け入れられるはず。
厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会
 子どもの脳死判定の可能性についての疑問の声もある。
小児脳死判定後の脳死否定例(概要および自然治癒例)(「死体からの臓器摘出に麻酔?」より)
 もちろん、新しい臓器移植法自体に関する批判の声もある。
参議院・臓器移植法「改正」A案可決・成立に対する緊急声明(人工呼吸器をつけた子の親の会<バクバクの会>)
 日本より先に親族優先提供を実施してきた韓国のケースについての優れた考察が下記に。
《時評》改正臓器移植法・親族優先提供はどうなるか〜韓国の経験に学ぶ
 親族提供というのは実際にはめったに起こらないことなので、親族提供を可能にするというのは、ドナーとなる意思を示す人を増やすというのがリアルな意味だということらしい。

 もっとあるけど、今日はここまで。