備忘録

科学技術論を専門とする大学教員・研究者である林真理の教育、研究、生活雑記。はてなダイアリーから移行してきました。

大学秋入学への期待:就職活動への影響

 まず東大が導入に前向きであることが伝えられ、さらに他大学にも波及する可能性が報じられている。私の周りでも附属高校の先生が話題にしているのを聞いた。賛否両論ありうるが、個人的な思いから一番期待したいのは、就職活動に対する影響だ。
 「就職(内定)率」といった言葉がある。ちゃんとした定義はないが大ざっぱに言って、ある年度の3月末に卒業した(する)学生のうち、就職希望者を分母に、4月1日に実際に就職する(ことになっている)人を分子にした数字だ。大学ごとの数字が発表され、いろいろなところで引き合いに出され、大学に対する世間の評価につながっている。しかし、「卒業後すぐにどこかに勤める割合」に過ぎないこの数字に、過大な意味が持たされてはいないだろうか。
 この背景には、制度の問題もあると考える。3月卒業、4月就職という形で、ほぼ一斉に学生が動くからこそ、年に一度、横並びの比較が可能になる。秋入学の全面導入をする大学が出てきてこの前提が大きく揺らぐと、何らかの影響を与えるはずだ。企業の側も、募集の通年化などで対応せざるを得ない。さらに「新卒採用」という括りが無意味になるかも知れない。今だって、大学には、卒業後の進路先という個人情報を全数把握する義務などないはずなのだが、卒業後に初めて就職決定する学生が増えればなおさらだ。新卒者の「就職(内定)率」という言葉は、なくならないにしても、あまり重視すべきではない数字になるのではないだろうか。
 大学も、単に内定を得るためのテクニックを教える場ではなく、さらにその先まで見通して人間形成の基礎を担う場という役割をもっと主張して良いようになるだろう。そういう意味で、この傾向の広がりに期待したい。