備忘録

科学技術論を専門とする大学教員・研究者である林真理の教育、研究、生活雑記。はてなダイアリーから移行してきました。

映画「タリウム少女の毒殺日記」

 タリウム少女の毒殺日記を、metaPhorestセミナーで鑑賞しました。

 以下、ネタバレになります。
 
 監視社会を打ち破る(というよりすり抜ける)解決策として自分自身を主体的に監視し、また逆に監視社会そのものを対抗的に監視する新しい自己を立ち上げることを「希望」として描いているという話を監督から聞けた。私がちゃんと映画のメッセージを読み解けていなかったので、直接話してやっとわかったことだ。
 監視カメラを探索の対象とするゲームを楽しんだり、ICカードをあえて使い分けて収集情報にノイズを送り込んだりする遊びを積極的にやってみたいという気持ちはよくわかる。人間って、今の科学で分析できてしまうような「しょせんこの程度」(英訳字幕ではsimple)に過ぎないけれど、そしてそれは本当かも知れないけれど、そう言われたらなんだか反抗したくなってしまうものだ。でも、そういう近代的自己の再構成で本当に監視の罠から逃れられるのかどうか、やっぱり疑問は残る。自らを監視する自己の再構成は、監視社会へのアンチテーゼとなるのではなく、むしろ監視社会を最終的に完成させる最後のピースにすら思えるからだ。
 「解剖」「いじめ」などつらいシーンが苦手でない人にはおすすめ。サイエンスコミュニケーターの皆さんは、苛立つ点も多いと思いますが、だからこそ逆におすすめ。ラエリアンの入信者の方に超おすすめ。