備忘録

科学技術論を専門とする大学教員・研究者である林真理の教育、研究、生活雑記。はてなダイアリーから移行してきました。

企画・司会者の個人的メモ

 市民科学研究室の上田氏が報告してくれた生殖技術体験者アンケートについては、何を目的としているのかわからないという問題点の指摘があった。でも、研究という種類の活動は、まず知るということが目的なのであって、そこから先は知ってみなければわからないという点は少なからずある。市民団体だからといって「○○に反対(推進)する」という種類の目標を必ず持たなければならないというわけではないだろう。むしろ問題を発掘するための活動と位置づけられるのではないか。
 若松氏の報告については、二人のコメンテータから同じような問題点が指摘された。コンセンサス会議的な合意形成手段が、行政の正当化に上手に利用されるだけではないかというものだ。しかし、例えば声をあげることのできない当事者が市民パネルとして参加し、その当事者の意識が共有されていくということはあり得る。それは「見えない当事者の可視化」といプロセス(これが重要であることは批判者も一致している)に貢献することではないだろうか。その可能性を全面的に塞いでしまうものではない。
 また、若松氏の試みが行政の側からは警戒感を抱かれているというのも事実だ。この警戒感は、上記の批判とはまったく正反対の見方によるものである。どこの誰だかよくわからない市民パネルの出す結論というものは、自由にメンバーを指名できて意のままに動く審議会と違って、何が出てくるかわからないからだ。政策決定の一貫性が保てなくなるというのが、行政の側から見た、コンセンサス会議的な合意形成手段の問題点なのだろう。
 右からも左からも(しかもまったく正反対の理由で)批判されているということは、どっちかが当たっていないということではある。どちらの批判も当たらない抜け道があるのかどうか、そこが問題のように思う。これはおそらく、やってみなければわからない。
 川見氏の説明で一番印象に残ったのは、市民を「潜在的な当事者」と位置づけているところだ。当事者性と公共性がどのように両立しうるのかという問題はずっと考えてきたつもりなのだが、「潜在的な当事者としての強い自覚のある人」という捉え方は大きなヒントになりそうな気がしてきた。
 以上、とりあえず。