備忘録

科学技術論を専門とする大学教員・研究者である林真理の教育、研究、生活雑記。はてなダイアリーから移行してきました。

何年ぶりかでゴールデン街

 今月退職されるM先生の行きつけだという、新宿ゴールデン街の店に行くことになった。この界隈には、長いあいだ足を踏み入れていないような気がする。ひょっとするとインターネットサイトができてから行ったことがないくらいかも知れない。いずれにしても久しぶりだ。
 行き先は、あらかじめ電話をかけたら店を開けてくれるという「気まぐれ営業」のお店。我々4人が入ると店がだいたい一杯になる広さの小さな店だった。一応、窮屈なのを我慢して座れば7人入れるだけの椅子はあった。それ以上客が来た場合は、カウンターの中に入って、立って飲むことになっているという。
 店の主人は、無邪気な少女のように自分の好きなことばかりを話し続ける自称84歳の女性。カウンターの中で、客に合わせてビールを飲んでいる。私がノンアルコールのメニューを尋ねたら、「ウーロン茶ね!」と一刀両断され、目の前に2リットル入りのペットボトルを置かれた。飲み物はまったく冷えていなため、焼酎の他、ウーロン茶、それにビールもすべて氷入りである。ただし、氷はミネラルウォータを用いて冷凍庫で作ったというのが自慢で、女主人は、その氷を少しずつ割って客に配り続けた。
 食べ物の方は、すぐ近くの伊勢丹で買ってきたオレンジを切って並べたのが、唯一の「手作り」だった。おいしいでしょ、と2回同意を求められた。その他のつまみは、すべて隣の居酒屋からの取り寄せだった。といっても、メニューが置いてあるわけではないので、何が出てくるかわからない。
 サービス精神とは無縁で、主人本意のこだわりが押しつけられるこの店だが、何年も続いているという。きっと、主人の話し相手になり、時には店を手伝う一定数の固定客が存在するに違いない。そこは、主人の魅力がなせるわざなのだろう。通常の「飲食店」とはまったく違う力学で成り立っているこの空間に、自分もわずかな時間とはいえ存在し得たことがうれしかったので、そのことをここに書きとめておこうと思う。