備忘録

科学技術論を専門とする大学教員・研究者である林真理の教育、研究、生活雑記。はてなダイアリーから移行してきました。

放射線照射

 香辛料に対して、その風味を損なわず保存性を高める目的で、放射線照射を利用しようという声が挙がっているとのことである。
 放射線照射は、食品に放射線を照射して殺菌などを行う技術。現在日本では、ジャガイモの芽止めのための使用のみが認められている。かつて食品の保存性が増して、「世界の食糧問題を解決する画期的な技術」などと喧伝されたこともあった。しかし、食品成分に対する未知の影響を恐れる消費者団体等の声もあって、ジャガイモでの利用だけに落ち着き、その後その使用を拡大しようという動きも近頃あまり(国内では)聞いたことがなかった。
 つまり、この問題は既に基本的には歴史上の問題になってしまっていた。だから、GMO問題との比較という意味でも、(私の力でできるとは思えないが)きちんとその過程を検証すべきだろうと考えてきた。実際に、食品の安全性問題の専門家の口から、GMO問題を放射線照射問題になぞらえる表現を聞いたことがある。過去に行われたリスク・コミュニケーションはどのように行われた(行われなかった)のか。その際のリスク認知はどのようなものであったか。どのような利害関心が、当時の技術の使用あるいは不使用を正当化したのか。そういったことには非常に興味がある。例えば、「原子力技術の平和的、多目的利用」といった観点もあったであろう。(現在であれば、(スパイスだけならあまり意味がないかもしれないが)「地産地消」という考え方に逆行するという見方もあろう。)
 そもそも今回のことだって、提案は原子力委員会で話し合われて出てきたものである。国民の健康と安全に責任があるはずの厚生労働省が、今後どのように対応していくのかが問われる。科学的な観点に基づいて、再びリスクとベネフィットを考え直しても良いのではないかという発想が出てくるのは自然なことである。しかし、それが国民の安全性向上という観点から出てきている様子がない(つまり実際に消費者にとって現在何か困った問題があって、それを解決しようとして出てきているのではないように見える)ので、社会的受容は難しいのではないかという直観がどうしても働いてしまう。
 原子力委員会食品放射線部会のサイト
 http://aec.jst.go.jp/jicst/NC/senmon/syokuhin/index.htm
 保坂展人氏のブログ(質問書と答弁書の内容が掲載されており有益)。
http://blog.goo.ne.jp/hosakanobuto/e/80dc72e625a319d5f7ac52974339337d
http://blog.goo.ne.jp/hosakanobuto/e/498380389256210d12bacff64aa910dd