備忘録

科学技術論を専門とする大学教員・研究者である林真理の教育、研究、生活雑記。はてなダイアリーから移行してきました。

友達は大切に(ソフトバンクCM)

 CMの内容は、数人の女子学生が集まって会話中、あとで電話をするという約束を始めるが、その際に一人だけ別会社(ソフトバンク以外の会社)の携帯電話を契約している学生がちょっと気まずくなり、それを周りが「優しく」フォローする、というもの。そして、最後に文字だけの画面が何種類か出てくるが、そのうち一つは「友達は大切に」と書かれている。
 この「友達は大切に」という言葉の意味は何だろう。他の携帯会社を使っている友達も大切にしてあげてね、という意味にもとれる。確かにそうでないという理由はない。そして、実際にCM中で演じられているストーリーの内容は、表面的にはまさにそういうことに他ならない。
 しかし、仲間と違う携帯会社を使っている人は友達を大切にしていない、あるいは友達を大切にするつもりがあるなら同じ携帯会社と契約すべきだともとれる。というのも、このストーリーがあくまでもソフトバンクのCMだからである。ソフトバンク社の契約数を増やす目的ですべての文字画像が位置づけられていると考えられるからである。この携帯会社の契約を増やすための宣伝であるという文脈がそういった読み取り方を許す。そう考えると、このCMは読む側に文脈と解釈を任せた非常に面白い構造のものだ。
 このCMを初めて見たときちょっと嫌な気分になった。これはひょっとすると、後者のような解釈を行っているのがまさに自分自身だということに薄々気づいていたからかも知れない。しかし、周囲の「優しさ」が主体の内側から働く圧力として機能し「排除」または「同化」を導く構造の範型であるようにも思えたからでもある。そう言ったら、ちょっと言い過ぎだろうか。
 なお、今のところ動画はYouTubeで見ることができる。CMの概要は冒頭に簡単に記したが、「ごきげんよう」といった言葉遣いに含まれる冷ややかさが一層観るものの嫌悪感を高める見事な演出は、実際に体感して欲しい。